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潮音寺プロジェクトの変遷−現代に合った形でお寺をアップデートする

小田原七福神である毘沙門天を祀った寺院であり400年の歴史を持つ潮音寺では、音楽教室や映画鑑賞会等のイベントを多く行うなど、現代におけるお寺の新しいあり方を長年模索してきました。

現在、当寺では「寺コンバレー」と銘打って、大手不動産会社ハウスコム株式会社と共にお寺を活用したコワーキングスペース、コミュニティづくり、そして地場産業の活性化を目指しています。

そもそも当プロジェクトは、2018年11月にハウスコム社主催の学生ビジネスコンテスト(以下、学生ビジコン)がきっかけで始動したものです。

学生ビジコンはハウスコム社が学生から得たアイデアを実際の事業として具現化するという取り組みで、「近年急激に増加している訪日外国人旅行客の数に対して、宿泊施設がまったく足りていない」という課題を既存のお寺施設を使って解決するという案が審査員から評価され、事業化が決定しました。

そして事業化を行うにあたり、潮音寺がその拠点として選出された次第です。

とは言っても、2018年11月の時点では寺コンバレープロジェクトはあくまでもアイデアレベルでした。これは植物で例えれば、まだ種を植えたにすぎません。

そこで2019年夏から同プロジェクトの関係者が潮音寺に集まり、宿泊合宿という形をとって本格的に議論を開始しました。

前回のブログ記事で「お寺の文脈に沿ったものでなければ、一過性の取り組みになってしまう」とお伝えしたとおり、まずはお寺の原点から考えました。

インバウンド需要の受け皿としてお寺を活用する点が学生ビジコンでは評価されたものの、議論を深める中で「コミュニティの概念を現代にあった形で再定義」することの重要性を再確認しました。

と言うのは日本のお寺は古くから地域のコミュニティとして機能してきた側面があり、地域の人々が集まり繋がる場所として重宝されてきたからです。

訪日外国人が急激に増加し国際化が進む日本において、そうした概念を少し拡張し、「地域住民のみならず外国人も含めたコミュニティづくり」が案として挙げられました。

具体的には、外国人の方を集めて座談会の実施や、僧侶による説法と精進料理の調理、そして一緒に食事をするなどの活動です。

在日外国人は、文化、言語、そして生活習慣の違いなどから企業・地域から孤立しがちである点に着目し、彼らが日本での暮らしに1日も早く順応できるようサポートできればと考えました。

これらの活動を通して、在日外国人に対する文化理解を促し、コミュニティ形成の場所としてお寺を活用することが目的です。

しかし、こうした議論を進める中で、コミュニティを求めているのは外国人だけではないことに気がつきました。

実は日本は先進国の中でもっとも孤独な国民だと言われており、家族以外のコミュニティとの繋がりが薄く、社会の結束力や人間関係の豊かさを表す「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の指数が149ヵ国中101位と、ソーシャル・キャピタル最貧国の一つに数えられるのです。

孤独のリスクは1日にたばこを15本吸うことに匹敵すると言われ、肥満の2倍も体に負荷をかけ、さらに心疾患リスクを約29%も高くなるなど、地域での健やかな暮らしを考える上で真剣に議論すべき問題だと言えます。

プロジェクト発足当初、「日本を訪れる外国人の課題を解決する場所」としてお寺を捉えていましたが、議論を深める中で最終的には「孤独という社会的課題」を解決する場所としてお寺を捉え直す方向性で議論が進みました。

こうした課題を解決する方法はいくつか挙げられますが、現時点ではコワーキングスペースを活用した課題解決を検討し、ハウスコム社とともにコワーキングスペースの開設を目指して現在も調整が進んでいる状況です。

今後も議論を続け、現代にあったかたちでお寺を再定義することができればと思っています。

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