1. HOME
  2. コラム
  3. お寺は多様化に進む地域の人たちが交流できるサードプレイスへ

お寺は多様化に進む地域の人たちが交流できるサードプレイスへ

あまり知られていないことですが、日本全国には7万を超すお寺が存在し、コンビニの数が5万軒であることを考慮すれば、お寺が我々に与える影響は決して小さくありません。

実際、お寺は葬儀等に限らず、寺子屋として教育機関の役割を果たしたり、江戸時代には戸籍管理を行うなどして現在の自治体の役目を担うなど、お寺と地域社会との関係性は密接なものだったのです。

ところが、現代人の価値観の変化により葬儀の際に「とにかくその場だけお坊さんの格好をした人がいればいい」と考える人が増え、さらに少子高齢化や人口減少によって「お寺離れ」が加速しています。

こうした現状の中、神奈川県小田原市の潮音寺(ちょうおんじ)では次の時代における新しいお寺のあり方を模索しています。

今回お話を伺った潮音寺の次期住職、安藤正隆さんはお寺の現状についてこう話します。

今回お話を伺った安藤正隆さん(右)

「高齢化や人口減少によってお寺と関係性を持つ人が減ることは、お寺の衰退に直接的な影響を及ぼします。一方でこうした問題はすぐに食い止められるわけではないため、これからも向き合い続けなければならない問題です」

「また、外部からの来訪者を増やすという意味で、一部の寺のように観光地化することも検討しましたが、私は今後長期的にお寺を守っていくという意味において、『思いやりを表現する場』としてのお寺を作っていきたいと思っているのです」

「様々な解釈があるかとは思いますが、お寺の本質は『他者へのおもいやりを表現する場』であると考えています。もともと亡くなった遺族に思いを馳せるためにのお寺ですから、現代社会にあった方法でお寺を捉え直すことが、次の時代のお寺を考えることになると思うのです」

「供養」「教育」「エンタメ」「地域自治」と様々な顔を持つお寺の本質

近年ではお寺の再生を目的に、お寺を拠点とした新しい取り組みが日本各地で盛んに行われるようになり、中にはエンターテイメント要素の強い取り組みもいくつか見受けられます。

実はお寺は江戸時代から娯楽の拠点として使われていた歴史があり、富くじ(宝くじのようなもの)、相撲、芝居小屋など、お寺の境内は地域社会をまきこんだ娯楽場のような側面も持っていました。

こうしたお寺の歴史的背景を考慮すれば、お寺をエンターテイメントの場として再定義する取り組みは理にかなっているようにも感じますが、安藤さんはこうした取り組みに関して慎重な態度をとっています。

「日本各地のお寺で行われている取り組みは興味深いと感じます。しかし、お寺の今後を考える上において、お寺のこれまでの文脈に沿った取り組みでなければ長期的に取り組みを続けていくことは難しいと考えています」

安藤さんはこれからの潮音寺のあり方を考える上で、まずは「お坊さん」と「お寺」を分けて考える必要があると話し、その上でお坊さんにはかつて3つの強みがあったと次のように分析します。

「1つ目の強みは教養です。寺子屋は誰もが知るところですが、お坊さんは読み書きが自由にできる知識人として地域の庶民教育を担う存在でした」

「2つ目は供養です。仏教のもと供養を実行する人として、遺族の方の『これで先祖は満足しているのだろうか』という不安に寄り添ってきました」

「3つ目は地域を治める力を持っていた点です。江戸時代にはお寺が地域の戸籍帳を管理しており、今でいう自治体のような役割を持っており、そのような立場にあったお坊さんはそれぞれの教養を背景に人々を導くこともありました。もちろんすべてのお坊さんではありませんが、今よりもその役割は大きかったはずです」

しかし、今では教育機関や役所がこうした役割を果たすようになりましたし、檀家制度に重きを持たない人が増加したことによってお坊さんの価値は相対的に下がってきていると安藤さんは指摘します。

それに伴い、お坊さんの活動拠点であるお寺の価値も同時に下がっています。

こうした時代において、お坊さんが活路を見出すために行うべきことは「個人のブランド化」だと安藤さんは考えているようです。

個人のブランド化と各地の色を持ったお寺の融合

「かつてお坊さんが地域の方から尊敬を集めていたのは、勉強や地域のまとめ役など、他の人が容易に“できないこと”をやっていたからです。そういった意味で、これからのお坊さんは単に人々に施しを与えるだけではなく、社会に発信できる力が求められています」

「そしてお坊さんのプレーヤーとして価値をあげる。つまり、お坊さんの『個人ブランド化』が次の時代における鍵になると私は考えているのです」

お坊さんの個人ブランド化において、安藤さんが現在注視しているのが在日外国人の存在です。

「お坊さんはこれまで寺子屋などで地域住民に教育を施すなど、地域住民の社会生活を豊かにする立場として尊敬を集めていました。それと同じことを在日外国人向けにできないかと考えたのです」

「近年は外国人移住者の増加に伴い、文化の違いから地域社会との軋轢が生まれているという話をよく耳にします」

「かつて地域住民に勉強を教えていたように、これからは移住してきた外国人が地域社会に1日でも早く順応するため、日本の文化や風習を学べる場所を提供しても良いかもしれません。日本の文化を学ぶ場所としてお寺を有効活用していただくのです」

「これはあくまで都市部のお寺における1つの試みです。このような活動をするための環境・条件が整わないお寺の方が圧倒的に多いでしょう。でも過疎地域のお寺であるならば、田舎の村で孤立する高齢者のコミュニケーションセンターとしてお寺の空間を活かしていくとか、それぞれの地域にふさわしいお寺の可能性があるはずです」

供養の場所として生まれたお寺は、「他者への思いやりを表現する場所」として、時には祭りの場や教育の場として地域社会を豊かにするために使われてきました。こうした点について安藤さんはこう話します。

「日本社会の課題としてソーシャルキャピタル、つまり人間関係の豊かさを表す指標が先進国内で低く位置しています。寺院は多様な形で地域の人達が交流できるサードプレイス化していくことも目標としていくべきであると考えています」

日本各地のお寺で様々な取り組みが行われる中、「思いやり」を表現する場所としてお寺を再定義することによって、今後のお寺のあり方を模索する潮音寺。

今後も安藤さんと潮音寺の活動に注目です。

◆取材協力

潮音寺/安藤正隆

◆アクセス

神奈川県小田原市久野511

関連記事